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ポケットティッシュの話

ポケットティッシュってめちゃくちゃすごいと思う。めちゃくちゃ便利。ユースフル。

鼻擤みたい、ほらポケットティッシュ。
あー、テーブルにお醤油こぼしちゃったわーん、ほらポケットティッシュ。
鼻のあぶらがすごいわ、ほらポケットティッシュ。
助平な動画を見すぎて鼻血ぶーだわーん、ほらポケットティッシュ。
めっちゃ大事な連絡事項あったけどメモ帳ないし適当な紙もない、ほらポケットティッシュ。

ものっそい便利。

街頭で、コンタクトレンズとか夜の店の広告を挟んだポケットティッシュが毎日のように配られている。

僕の友人にマサシという男がいる。
彼はポケットティッシュを貰わない。
5分に一粒ミンティアを口にほりこむ彼に何故ポケットティッシュを貰わないのかと問うた。

「環境の為に決まってるだろ」

彼はそう答えた。 
空前絶後のドヤ顔だった。
口角が上がり、顎も少し上がり、その中途半端に澄んだ眼は僕を確実に捉え、「私は環境について考えている高尚な人間なんだよ。僕はリサイクルマンなんだ、リサイクルマン代表取締役なんだ、リサイクルマンズチャンピオンシップで13回連続優勝している男なんだ」という顔していた。

僕はイラっと来たので理屈で攻めてみた。以下の僕の言い分は理屈をこねてみただけで、僕が森林伐採を推進している訳ではないことをご理解頂きたい。

なるほど確かにポケットティッシュの原料は紛れもなく木であり、何処かの国の森林バッサイバッサイの末、出来上がるのがそれである。

「いやでも、もう既にポケットティッシュとして出来上がってる訳やから、お前が貰わんかったところで、切られた木の総量は変わらん訳やから意味ないやん。筋通ってないで。」

「は? いや、気持ちの問題だから。そもそもポケットティッシュいらないし。」

「気持ちの問題、の〈気持ち〉ってどういう気持ちか詳しく。」

「なんなの? だから、まあ、俺がポケットティッシュ貰わないことで少しでも伐採される木の量が減ればいいなってこと!」

「なるほど。でもポケットティッシュもっとけばよかったーっていう場面、人生で幾度もあるやろ?」

「なんの話してんの?今から映画観んのに」

「さっきだって、コンビニで買ったアメリカンドックのケチャップが服についてあたふたしてたやん。ほら、その白シャツの4番目のボタンの脇に赤いのついたままやん。あの時ポケットティッシュでさっと拭いていたら、一回洗えば綺麗に落ちたやろな。でももうその感じは完全にシミになってる。洗濯機で洗うだけでは落ちへん。二回三回洗うか、シミ抜き洗剤使うか、クリーニングに出すか、もうその服を着ないか、シミの付いた服を着て「あの人ケチャップこぼしてはる、、、」と周りから行儀の悪い人として見られるかの選択肢しかないわけや。手間、お金、恥、どれかを選ぶしかなくなったわけや。それでもまだ、ポケットティッシュは要らないと。切られてきた木の量、これから切られうる木の量に変わりは無いというのに、自ら人生の選択肢を狭めてまで、株式会社リサイクルマン代表取締役兼リサイクルマンズチャンピオンシップ13年連続チャンプのような顔をして環境保全を高らかに嘯くんか?

マサシは無言で僕の右肩に2発の強力なパンチを打ち込み、唾を吐いて帰って行った。

僕は彼の吐いた唾をポケットティッシュで綺麗に拭き取りながら、やっぱり便利やなと思った。


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