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芸人物語 第1話〜雨宮の特殊能力〜

「太陽がアスファルトを溶かすんちゃうか。
暑すぎる。」

アスファルト溶けたら走ってるタクシーとか街路樹とかズブズブに溶けたアスファルトに沈むやん!
ほな、お前、地下街とかどうなんねんと!地下にアスファルト流れ込むやん!
デパ地下大変なことになるやん!
これは、大パニックやがな。
いやいや、タイタニックやな。
沈む繋がりで。
"大パニック"と"タイタニック"を上手いこと繋げた。見事すぎる。
俺は売れる、売れる、売れる。


三ツ島伸行は小田急新宿駅前の喫煙所でラッキーストライクを吸いながらそんなことを考えていた。ふと目線を下に向けると、大量の吸殻が落ちていた。不良人間たちが捨てていったのだ。「なんでそこに捨てんねん。いやすぐそこに吸殻入れあるがな。めんどくさいから?しばいたろかお前!マナー守られへんやつに人権ないねん!!」と心の中でツッコミを入れる。つっこむ内に怒りのボルテージがグングンと上がり、遂に三ツ島は本日79本目のラッキーストライクを地面に叩きつけもうかれこれ2年半履いている腐った鼠のようなニューバランス、その踵でもみ消した。
咽せなら三ツ島は西武新宿駅に向けて歩き出した。スマホの地図アプリを駆使して新宿ブーストに向かう。大阪から出てきて1年ほどになるがブーストの舞台に立つのは初めてだった。
三ツ島のコンビ、"尺八"が今まで出たライブは殆どが中野で行われているものだった。客は平均3人。事務所の先輩から新宿ブーストで毎月行われているバトルライブ「ブーストファイト」のことを聞いた三ツ島の相方、雨宮はすぐに主催者に電話をしネタ見せの日を決めた。渋谷道玄坂の雑居ビルの一室でネタ見せ、一発合格。出演の運びとなった。三ツ島は新宿ブースト近くの喫茶店でアイスコーヒーを注文し窓際の4人掛けのテーブル席に腰掛けた。雨宮に電話かける。

「…もしもし?俺やけど」
「うい。今どこなの?」
「喫茶店。今日のハコの近くにある"カフェドグリーン"いう店や。はよ来い。今日のネタやばいやろ。」
「カフェドグリーンね。急いで行くわ!」

20分程して雨宮がやって来た。
白いオックスフォードのシャツにベージュのチノパン、マンハッタンポーテージを肩から提げて、息を切らしてやって来た。
「ごめん、遅くなって!」
「ごめんやないねん。10分遅刻や。」
「いや、来る途中、あの、」
「なんや。何があったんや。理由次第で許すけど。」
「あの、来る途中、おっっっきなウンチがあって、それに道を阻まれて。」
「うーん、15点やな。」
「・・・。」
「前から言うてるけど、お前ボケやねんからもっとオモロイ発想せえや。」
「・・・。」
「いやなんか言うてー!!!」
「ごめん。」
「謝っちゃった!普通に謝っちゃった!」
「ごめんな、マジで。」
「だから深刻に謝んのやめろ言うてんねん!」

沈黙。

「雨宮、はよカサブランカモードなれや。」

店員がアイスコーヒーを三ツ島の前に置く。
「すみません、僕もアイスコーヒーください。ホットで。」
「雨宮!アイスコーヒーにホットとかないねん。わけのわからん。店員さん困ってるやないか。」と三ツ島。
女子大学生と思しきその店員はどうしたらいいのかわからず口を開いたり閉じたりしていた。
「ごめんな。普通のアイスコーヒーください。」「あ、はい。」

雨宮は間に儀式の準備をし始めていた。
「おい!今のなんやねん。店員にボケたり店員をイジるみたいなんが一番寒いねんぞ。お前、さっさとカサブランカモードなってくれ。耐えれんわ。」
「そんなに急がなくてもいいじゃん。」
「おもんないお前とおるの嫌やねん!はよせえ!」
「もう、わかりましたよ。」

テーブルの上にサンマの開き(生)とポテトチップスコンソメ味、火のついたろうそく6本、ワイングラス、ペットボトルのクランベリージュースが置かれていく。
「今日はタイプGか。気合い入ってんな。」
三ツ島の言葉を無視し、雨宮は儀式に入った。まずクランベリージュースを半分まで飲む。『エクスペトロパトローナム!ナムナム!ナムルはキムチの二番煎じ!』と言い、火のついたろうそくで髪の毛を燃やす。燃えたぎる頭に三ツ島がサンマの開きを乗せその上にポテトチップスコンソメ味を細かく砕いてふりかける。「今だ三ツ島!」そう叫んだ雨宮の腹部に三ツ島の右ストレートがクリティカルヒットする。先ほどのクランベリージュースが雨宮の身体を逆流、口内に溜まる。その時だった。雨宮の体に無数の小さな穴が開き、そこから数千の藪蚊が流れ出てきたのである。藪蚊の大群。
カフェドグリーンの店員斉藤は雨宮を見つめ呆然と立ち尽くしていた。
客も目を丸くして雨宮を凝視していた。

続く
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